photo / Eva Vermandel |
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映画『天国への階段』がステージ上のスクリーンに映し出され、オーディエンスが、その映像に見入ってから約7、8分、British
Sea Power(以下BSP)が現れた。第一次世界大戦を思わせる衣装に身を包み、ゆっくりとステージを歩き、それぞれの楽器を手に持つストイックな姿、そして、奏でられた『Heavenly
Waters』。別世界にいるかのような、シアトリカルな空間の中、バンドはドラマティックな演出に、全スピリットを捧げているように見えた…。 今年初頭、フレーミング・リップスのUKツアーで、初めてBSPを知った。しかし、「フレーミング・リップスのサポート・バンド」という形容詞では収まりきれない、確固としたアイデンティティを持ち備えた、BSPの圧倒的な存在感。衣装や、自然をテーマにしたステージ小道具でオーディエンスの視覚観念に訴え、また、エモーショナルな音色の美しさによろめき、動揺を隠しきれなかった。ライヴにおいて、このように鮮烈な印象を持ったニュー・バンドは久々で、BSPというバンドを、BSPの音楽を、もっと知りたいという、強い興味が湧いてきた。 6月、イギリスでリリースされたデビュー・アルバム『The Decline of British Sea Power』は、イギリスの音楽プレスが大絶賛。私はこのアルバムを聴き、またインタビューを編集していく過程で、BSPの「領域の広さ」に、すっかり魅了されてしまった。BSPが発する、自然との戯れ、自己の存在意識、死との接触(チャネリング)、アートに対するスタンス、そこには独特のユーモア・センスがある。英国独特のエキセントリックさと、強さと、繊細さ、そしてどことなくひんやりした感性を兼ね備えたBSPのロックは、古いようで新しく、それがバンドのオリジナリティとして、すでに確立していることに、新鮮な驚きを覚える。 幸運なことに、多忙なBSPとのコンタクトに成功、シンガーのYanとメール・インタビューを行なえる運びとなった。BSP哲学を、ほんの少し噛み砕き、消化して、年末には実現するかもしれない来日を心して待って頂きたく思う。 |
Pukka Gallery: 始めに、バンド名の由来を教えて下さい。何だかとっても、イギリスっぽいバンド名ですね。 Yan: このバンド名は、英国海軍と大英帝国に関連している。ジョージ・オーウェルがそうだったように、僕たちは、とても反植民地主義なんだ。今もなお、世界中で大英帝国の影響を見ることが出来るだろ。これは「僕たちはそんなんじゃない。このようなことが二度と起こらないように祈っている」っていう、僕たちなりの方法なんだ。僕たちは、自分たちの国が汚れた過去を持っていることを理解しているよ。 ●デビュー・アルバムThe Decline of British Sea Powerには、心底、感動しました。芸術的に、美しく、エモーショナルで激しい音楽を、素晴らしいギターサウンドとともにクリエイトしたと思います。何度も何度も、このアルバムを聴きました!そこで、アルバム・コンセプトを教えて頂けますか?
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J. M. W. Turner 画家。1775-1851。イギリス生まれ。19世紀を代表するロマン派の風景画家。ロンドンのテート・ブリテン(旧テート・ギャラリー)には、ターナー自身の寄贈による、約2万点の作品がある。 |
僕たちは、「J. M. W. Turnerの絵画に共通した何か」を創りたかったんだ。多くの画家が、写真に見えるような風景を描いていた当時、彼はとてもドラマティックで、ほとんど超現実的な絵画を描いた。彼は、自分の絵画に、まるで実際に、嵐の真っ只中にいるような情感を持たせたかったんだ。僕たちは、自分たちが生来持ち続けている感情を楽しんでいるよ。憂鬱や悲しみ、激しさや、幸せを享受している。常に快適であることや、幸福であることなんて、自分が軽蔑するものと戦うことに比べたら何の魅力もないんだ。 ●アルバム・ジャケットに We ourselves may be loved only for a brief time… Even so, that will suffice… There is a land for the living and there is a land for the dead このようなフレーズがあります。これはとても意味深くて、印象的ですが、誰かの引用文ですか?それともあなたたちのメッセージでしょうか? これは、ある本の表紙にあった引用文を脚色したんだ。僕たちは死者の国が存在すると信じている。僕たちは本、墓石、音楽、化学薬品に潜むゴーストのように生きているんだよ。 ●歌詞について、何か特別なテーマがありますか?Yan: 僕たちは風景と思い出について歌っている。PG: チューンはどうですか?どのような時にひらめきますか? チューンは、どんな時にでも出てくるよ。田園地方を散歩している時や、お店に行く途中とか。時々、お皿を洗っていたり、海で泳いでいたりする時にもね。 |
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●今回、レコーディングのプロセスで、最も集中したことは何でしょうか?環境はどのような感じでしたか? レコーディングは、広大な墓地の近くと、大きな運河のそばで行なったんだ。「時間」という概念がずっと頭から離れなかった。一方では、ずっと昔に亡くなった人々の骨があり、もう一方では、水が数世紀に渡り異なった世界を流れ続けているという…。 ●アルバムに収録されているそれぞれの曲を、簡単に説明して下さい。 |
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モンゴメリー元帥 Field Marshalは陸軍の最高ランク 1942年、エル・アラメインでドイツ戦車隊を破りイギリス軍を勝利に導く。ドイツ指揮官は「砂漠の狐」と言われたロンメル将軍。 Joe Meek 1929-1967 イギリス・グロスター生まれ。イギリスの伝説的プロデューサーであり、レコーディング技術のパイオニアでもある。1967年2月3日、フラットの女主人を撃ち、自分も自殺した。 Sir John Betjeman 1906-1984 イギリス・ロンドン生まれ。イギリス桂冠詩人。 |
Men Together Today - フットボール観客唱歌に対する解毒剤。 Apologies To Insect Life - ドフトエフスキーは、ほぼ全てのことに正しかったけれど、昆虫に関しては尊敬を欠いていたよね。 Favours In The Beetroot Fields - モンゴメリー元帥は、彼の軍隊の性的欲望を気にかけていた。 Something Wicked - 不自然な目的のために利用された自然の象徴。 Remember Me - どこに思い出をしまっている?化学製品、本…。 Fear Of Drowning - 右翼の恐れ、おびただしい情報の海で窒息する恐怖。 The Lonely - 友人である Geoff Goddard についての歌。彼は Telstar and Johnny Remember me を書いた。 Carrion - イングマル・ベルグマンの、ある映画を音楽に。 Blackout - 死者の世界に入っていく過呼吸。 Lately - 第2次世界大戦における、ある軍人の思想と見解による壮大なストーリー。 A Wooden Horse -「トロイの木馬」の音楽バージョン。 ●どのような音楽に影響を受けましたか?音楽評論家たちは、ジョイ・ディビジョン、ザ・スミス、ザ・フォール、エコー&ザ・バニーメンなどを引き合いに出していますが? 僕たちは、ジョー・ミーク、ジョン・ベッチマン、ザ・シャグス、ザ・シルバー・ジューズ、ペイヴメント、ロイ・オービンソンが好きなんだ。これ以外にも本当にたくさんいるよ。 ●初めて British Sea Power を見たのは、今年1月、イギリスでフレーミング・リップスのサポートをした時でした。オープニング曲 Heavenly Waters は、息が出来ないくらい、美しい曲でしたが、この曲はどのように生まれたのですか? |
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Ebowとは、ギターを弾くために使用する、エレクトリックな弓状の楽器。ギターピックのように用い、通常のギターサウンドをストリングス、ホーンなどの音に変換させるシンセサイザー。 www.ebow.com |
Hamilton が Woody と Noble のフラットで、買ったばかりの1950年代製オルガンを弾いていた。Noble
はEbowを買ってたんだ。彼たちは一緒にプレイしたんだけれど、それは美しいサウンドだったよ。 ●ライヴが始まる前、英国映画『天国への階段』(原題 A Matter of Life and Death)をスクリーンに映し出していましたが、何故でしょうか? 僕たちがステージに現れる前、オーディエンスに、何かスペシャルなことをしたかったんだ。この映画は、天国と地上を舞台にした素晴らしい映画で、とてもドラマティックだよ!僕たちはデイヴィッド・ニーヴンの声と口ひげが大好きだし、ジューンはラヴリーな女性さ! |
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●個人的な意見として、Heavenly Watersは、デビュー・アルバムに収録されると思っていましたが、収録されませんでした。しかし、ニュー・シングル Carrionに収録されましたね。これは何故でしょうか?
この曲は、デビュー・アルバム発表までにレコーディングしていなかったんだ!でも、アメリカ盤には収録されているよ。たぶん日本盤にも!(私は待ちきれずにイギリス盤を購入したが、日本盤及びアメリカ盤には収録されています) ●Carrionでは、"Scapa Flow"について、歌っていますが、この"Scapa Flow"とは何でしょうか?ロンドンの場所ですか? "Scapa Flow"とは、スコットランド陸部の最北端にある潮流なんだ。二つの世界大戦中、多くの軍艦が、ここで撃沈された。ここの海は西アフリカから流れてきているので、温かく、スキューバ・ダイビングや、バード・ウォッチングには最適な場所だよ。 Carrionの7インチは1264枚限定で、それぞれに、異なった英国の海岸が、直筆で記されているそうですね。とてもユニークなアイデアですが、この意図することは何でしょうか? 僕たちは、すぐにでも人々の注意を、英国にある全ての素晴らしい海岸地方に惹きつけたかったし、そこを訪れて欲しいと願ったんだ。それと、海辺での過去の思い出を、思い出して欲しかったんだよ。 |
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●ライヴでは、衣装と小道具がとても印象的でした。これは、あなたたちの音楽コンセプトを表現する一部なのでしょうか? 僕たちがすること全てが、僕たち自身の拡張なんだ。僕たちはこの上なく率直だし、文字通り、自分たちの服の袖にハートを付けるつもりだ。 ●英国諸島をツアーしたそうですが、このツアーで特別に得たことは何でしょうか? 僕たちは、カッコウとマン島ミズナギドリを、見たかった。これらの鳥を、僕たちはそれまで見たことがなかったからね。 ●British Sea Powerを、文学で表現するとしたら、ぴったりとくる作品は何でしょうか? ジョージ・オーウェルと、ヤロスラフ・ハシェックと、ビル・オディの組み合わせだよ。 ●最後に、これからの予定は? 12月には日本に行くよ。9月にはドイツとオランダ、10月はイギリスとアメリカ・ツアーがある。たくさん曲を作って、この大きな世界をよくよく見ていくよ。 |
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http://www.britishseapower.co.uk | ||||
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